「私はこの日記を、逃げずに最後まで書き抜く。」
白蔵盈太さんの『あの日、松の廊下で』を読みましたので、私の感じた魅力をネタバレ無しでご紹介します。
【書籍情報】
題名 :あの日、松の廊下で
著者 :白蔵盈太
出版 :文芸社文庫
発売日:2021/4/5
本の長さ:262ページ(Kindle換算)
おすすめ度:★★★★☆
読みやすさ:★★★★☆
読了:2024/04/25
媒体:PrimeReading
※PrimeReadingは月に数十冊の入れ替わりがあるので、タイミングにより閲覧できない場合があります。最新情報は公式HPをご確認ください。
この記事の目次
本書との出会い:著者さまの別作品を読んだので
作品タイトルのキャッチーさと、表紙イラストの「苦労人っぽさ」に惹かれて、『義経じゃないほうの源平合戦』という小説を読みました。
これが非常に面白く、著者の白蔵盈太(しろくらえいた)さんの別の作品も読んでみたいと探したところ、PrimeReading対象となっていたのが本作『あの日、松の廊下で』です。
あらすじ
旗本・梶川与惣兵衛は、「あの日」もいつもどおり仕事をしていた。赤穂浪士が討ち入りを果たした、世にいう「忠臣蔵」の発端となった松の廊下刃傷事件が起きた日である。目撃者、そして浅野内匠頭と吉良上野介の間に割って入った人物として、彼はどんな想いを抱えていたのか。江戸城という大組織に勤める一人の侍の悲哀を、軽妙な筆致で描いた物語。第3回歴史文芸賞最優秀賞受賞作品。
Amazon商品ページより
私が感じた『あの日、松の廊下で』の魅力
平凡な男の覚悟に共感
本作の主人公である梶川与惣兵衛(かじかわ よそべえ)は、超下っ端役人で、物語に出てくる他のキャラクターと比べると、なんの権力も無い平凡な男です。
本作を読み始めた時点では、そんな彼の苦労人エピソードでも書かれているのかと思っていたのですが、まったくもって違いました。
下っ端役人なりに儀式を成功させるため、ときに叱られ、ときに邪険にされながらも奔走します。
なぜ彼がそこまで頑張るのかは、物語の終盤に語られますが、それを読んでからもう一度、最初の章を読み直すと、「なるほど、そういうことか」と深くうなずきたくなりました。
人間臭いからこそ魅力的なキャラクター
どんな人間でも、「良いところ」もあれば「悪いところ」もありますよね。しかも、ある人にとっては「良いところ」でも、別の人にとっては「悪いところ」になってしまう可能性もあります。
本作は、「幕府の代表として、朝廷(天皇)からの使者を歓待する、1年で最も重要な儀式」がメインの舞台となります。
出てくる主要なキャラクターはみな、その儀式を大きなトラブルなく執り行うために、「自分が最善だと思う方法」を探します。
しかし、誰かにとっての最善が、別の誰かにとってはそうでなかったり、自分の周りしか見えないからこそ、相手のことを勘違いしたり……。
「あぁ、絶対こういう人いるー!!」と思うほど人間臭いキャラクターばかりで、ものすごく愛おしくなります。
状況・行動・結果に納得感があるストーリー
あくまで個人的にですが、物語は「状況」「行動」「結果」の納得感が大切だと思っています。
例えば、
「私は運動が苦手です(状況)」
→「急に10km走りました(行動)」
→「筋肉痛になりました(結果)」
みたいな展開があるとします。
これらがきちんと繋がり、納得感があればいいのですが、説明が不十分で「そもそも、なんで運動が苦手なのに急に10kmも走るの?」と違和感を感じてしまうと、途端にストーリーを追うのが辛くなります。
本作は、というか著者の白蔵盈太(しろくらえいた)さんは、このストーリーの展開の仕方がめちゃくちゃ上手い。
私たちは、歴史を様々な「当時の記録」から想像するしかありません。
「状況」「行動」「結果」を埋めるように、実はこんなことがあって…とつなげていくことで、「もしかしたら本当はこんなことがあったのかも?」とか「むしろこれが真実だったら良いのに」と思わせてくれます。
歴史の隙間を自分でも考えたくなる
納得感がありグイグイ惹き込まれるストーリーが読みやすく、「自分もなにか、自分にできることをやってみよう!」と思わせてくれる作品でした。
私はこれまで、小説や映画、ドラマなど、作品を通してしか歴史に触れて来ませんでした。(受験勉強は別ですが、なにしろ20年以上昔の話ですので……)
しかし、歴史の知識を増やし、「隙間」を自分で妄想できるようになれば、いろんな作品をよりいっそう楽しめるようになるかも!と感じるようになりました。
私には2人の子どもがいるのですが、子どもたちにとっても役立ちそうなので、「まんが 世界の歴史」「まんが 日本の歴史」あたりから、スタートしてみようかな……(笑)